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蛾類学会コラム12 南アルプス高山蛾調査記

枝 恵太郎

思えばデスクワークの仕事に変わってから、見る見るうちに体重が増え、標本箱の高山蛾を見るたびに、夏山の美しい山嶺に郷愁を募らせるようになっていた。また、2年前の「やどりが」(日本鱗翅学会誌)の冬の蛾座談会の記事で、私のプロフィールに「昔は高山蛾屋だったが、体重が増えて山に登れなくなった」という紹介をされ、悔しさと哀しさを感じたことを覚えている。やどりがの記事が掲載された翌年(昨年のこと)、その紹介文を書いた四方圭一郎氏が主導の南アルプス聖岳周辺の高山帯の調査に、氏に誘われるがまま参加した。初日のコースタイムは5時間半程であったが、同行の岸本年郎氏(ふじのくにミュージアム)のサポートもあり、なんとか高山帯までたどり着けたのであった。この時は高山蛾もある程度確認ができて成果があったのだが、私にとってのもう一つの成果は下山後に体重が落ちていたことであった。

そして今年は塩見岳周辺で、狙うは50年間採集されていないキタダケヨトウ、長野県側からの登山で、初日のコースタイムも3時間程度だというのである。

Fig. 1 マツムシソウで吸蜜するナカトビヤガ

Fig. 2 日中の調査風景

今回は8月6-10日で、昨年同様高山帯調査の許可を得て(環関地国許第1807034号・第1807035号)、蛾類学会員は四方圭一郎・金子岳夫・飯森政宏各氏と私の4人、昨年も一緒に調査した甲虫が専門の岸本年郎氏と鳥類が専門の米山富和氏の6人の大所帯となった。

初日は、通常の荷物+ライトトラップや発電機など採集用具一式が加わり、コースタイムをはるかに越えて三伏峠(標高2500mほど)に到着した。すぐにテントを設営し夜間調査の準備をして、ほどなく夕食タイムとなった。しかし、夕食の途中から物凄い雷雨になり、そのまま3時間以上降り続いたため、夜間調査は断念した。

 

Fig. 3 三伏峠夜間採集風景

翌日は、塩見岳まで移動登頂後、塩見小屋泊まりとなった。夜間は標高2800m程のハイマツ帯での採集となったが、最終的に気温が10度で強風となったため、3時間程度で調査終了した。それでも、高山蛾であるヤツガタケヤガが複数飛来した。その日は、三伏峠小屋に残った飯森氏の採集する灯りが遠くに見えていた。翌日、三伏峠に戻るも午前中から雨で、早々に小屋に入り酒盛りとなり、夜も風が強いため調査断念。翌朝は下山前日となったが、天候は回復し、マツムシソウが繁茂するお花畑には、ナカトビヤガやベニヒカゲ、クモマベニヒカゲが花という花に吸蜜に来ていた。そしてこの日が最後の夜間採集となるのだが、気温も下がらず夜半過ぎても15度あり、高山蛾を多数含む蛾類の大乱舞となったのである。

Fig. 4 ホッキョクモンヤガ

今回の調査で主に飛来した高山性ヤガは、ヤツガタケヤガ、ホッキョクモンヤガ、アルプスクロヨトウ、アルプスギンウワバで、狙いのキタダケヨトウは採集できなかった(誰かの採集品の中にあるかもしれないが・・・)。目玉は、飯森氏が三伏峠で採集したオオギンスジコウモリで、これについてはあらためて報告することになるだろう。

2年前の四方氏の毒舌紹介が私を高山蛾調査に引き戻してくれた形となったが、今回は下山しても体重が減っているわけでもなく(雨で停滞し酒盛りが多かった・・・)、どうも四方氏に上手くノセられてしまったように思うのである。

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Last update: 19 Aug, 2018