TITLE

蛾類学会コラム3 キリガ(冬夜蛾)

小林 秀紀

 

Fig. 1 小林秀紀氏似顔絵。

蛾の最盛期はもちろん春から夏だが、冬に蛾ファンが熱中するのがキリガ(冬夜蛾)だ。身も心もキリっと引き締まる寒い季節に、キリガを採るのは、その難しさと稀少さで心躍るひと時だ。採集に出るときに今晩の目的を明確にできるのもキリガの良いところだ。

「日本の冬夜蛾」にはキリガ全種の出現期と出現場所が書いてあるのでこれを参考にすれば最初のシーズンに半分以上は手にすることができるだろう。

秋の風が吹いたら、まず燻銀のシロスジキリガ(Fig. 2)を採ろう。展翅標本の美しさにもみとれるが、野外で翅を折りたたんで止まっている姿の渋さ。それなら9月の北軽井沢だろう。この蛾はこの季節で、この限局されたところでしか採れない。もちろん北海道では珍しいというわけではないが、やはり狙っていかなくては採れない。

10月、私はコケイロホソキリガ(Fig. 3)が好きですね。複雑で変化にとんだ色の配置。Conistraもまだピカピカで良い。11月、サヌキキリガ、これは関東では厳しい。西に行かなくては。ヨスジキリガも良い。糖蜜を見て回ると明るい茶の地にくっきりした白線がライトに輝く。ミツボシキリガの仲間が翅を震わせて紋を見せびらかす。12月にはハネナガモクメキリガを採ろう、この重量感ある鈍い錆色の蛾は、高尾山かな、湘南台かな、いっそ佐賀の同好の士のところに転がり込むか。オガサワラヒゲヨトウを採ろう、12月かなあ、11月かなあ、奥鬼怒か、松本か、それともいっそ岩手まで。こいつはキリガの中の最稀種だ。

しかし、そんなに遠くへ行かなくても都会の近郊の公園にもいいものはたくさんいる。糖蜜採集がよい。3月になるとライトにたくさん飛来するようになる。タニガワモクメキリガ(Fig. 4)、この美しい蛾を野外で見てない人は不幸だ。そしてアズサキリガ、タカオキリガ(Fig. 5)という最麗種でキリガシーズンは終わり、夏蛾の季節が幕を開ける。しばらく暑い季節で汗まみれになれば、また秋の風が吹いてキリガシーズンがやってくる。今度こそクロアズサを採るぞ。

カテゴリーの一覧へ戻る

Last update: 19 Dec, 2017