蛾類学会コラム28 蛾類に夢中だった小学生時代
長田 庸平
2025年に埼玉昆虫談話会発行の「寄せ蛾記」上で「埼玉県産蛾類総論」が出版され、埼玉県の蛾類相が明らかとなった。この目録の出版を機に、私自身の小学生時代をふりかえってみようと思う。
私は生まれも育ちも東京都であるが、埼玉県にも長く住んでいた。小学生のときは大宮市(現さいたま市大宮区)の堀の内町に住んでおり、ほとんど毎日この近辺で昆虫採集をしていた。標本作成を始めるようになったのは3年生のときで(1995年)、とくにチョウやトンボやクワガタムシを収集していた。志賀昆虫で購入した展翅板と紙製標本箱を使っていた。高学年になると(1997~1999年)、蛾の収集に没頭した。自宅アパートの灯りには夜になると蛾が飛んできた。昼行性蛾類もよく見られた。それらを一つ一つ採集して標本を作製していた。自宅の図鑑では調べられず、図書館(高鼻町にあった大宮図書館)の図鑑で同定していった。読んでいた図鑑は「原色日本蛾類図鑑」で、平仮名で書かれた種名を覚えている。
自宅アパートにはアメリカシロヒトリ、チャドクガ、モンシロドクガなどがよく見られた。スズメガ科ではエビガラスズメ、キイロスズメ、セスジスズメ、ブドウスズメ、ホシヒメホウジャク、トビイロスズメ、ウチスズメ(コウチスズメも?)、ウンモンスズメ、シモフリスズメ、ヒトリガ科ではシロヒトリ、シャクガ科ではユウマダラエダシャク(近似種も混じっていた?)、アオシャク類(種不明)、ツバメエダシャク類(種不明)、マエキトビエダシャク、エグリヅマエダシャク、ヨモギエダシャク、シャチホコガ科ではツマキシャチホコ、モンクロシャチホコ、セダカシャチホコ、コブガ科ではキノカワガ、ヤガ科ではアツバ類(種不明)、ウワバ類多数(種不明)、ヨトウガ類多数(種不明)、メイガ科ではマエアカスカシノメイガを採集した記憶がある。アケビコノハやフクラスズメなど大型で綺麗な蛾が飛んでくると喜んだものであった。駐車場でオオミズアオの死骸を拾ったことがある。昼蛾としては、オオスカシバ、ホシホウジャク、ホタルガ、ウメエダシャク、ミノウスバ、ヒメシロモンドクガ、シロオビノメイガなどシーズンとなればよく見られた(マイマイガの記憶はなし)。公園の花壇のホウセンカにはスズメガ(種は覚えておらず)の幼虫が見られた。街路樹ではイラガやチャドクガの幼虫が見られた(触らないように)。寿能町では、ヒメヤママユやマツカレハやセスジナミシャクを採ったことがある。ミノムシでは、チャミノガやクロツヤミノガの蓑がよく見られ、オオミノガの蓑を見た記憶がない。夜の見沼区大和田町の雑木林でカブトムシやクワガタムシを観察しに行くと、樹液にはオオシマカラスヨトウ(ニセシマカラスヨトウも?)、コシロシタバ(この近くでは斎藤(1991)による記録があり、県レッドリスト種ではないものの他の地域ではレッドリスト種になるほど減少しているようであるが、当時の私の感覚では当地では普通種)が集まっており、ベニスズメも見られ、トモエガの仲間(種不明)やオオミズアオも見たことがある。フユシャクの存在を知り、冬休みには雑木林でフユシャクを探し、見つけたときは喜んだものであった(種までは不明)。・・・と断片的であるが、当時の記憶をまとめてみた(旅行先でも蛾にまつわる思い出が多数あり、ここには書ききれないので割愛する)。
小学校高学年時代は蛾に始まり蛾で終わるという日々を過ごした。しかし、周囲に虫屋がいなかったためか、ラベルの正しい書き方を知らず(「埼玉県大宮市」としか書かず)、さらには保管方法の知識もなく、標本は全て朽ちてしまった(気が付いたら粉だけ)。当時は虫屋同志での繋がりは皆無であった。そのため、標本が現存しないことから正確な同定も発表も当然できない。もし、日本蛾類学会や埼玉昆虫談話会の存在を知り、入会して虫屋同志のネットワークを持つことができれば、標本が保存され、「蛾類通信」や「寄せ蛾記」などに発表できたかもしれない。今思えば貴重な記録も含まれると思うと、悔やまれる。
中学生になってからは(大門町の氷川参道沿いにある現在の実家に引っ越し)、蝶屋まっしぐらで、蛾類と触れ合う機会が少なくなった。行動圏が広まるごとに、蝶への熱が上がり蝶採集に明け暮れる日々であった。20代のとき、実家マンションの玄関近くでクスサンを発見した。大宮区の市街地の中では珍しく、1枚写真を撮った。採集を試みるも突然動き出し、遠くへ飛んで行ってしまった。5年後、蛾類通信に報告した(274号掲載)。
大学院で小蛾類の分類の研究を始め、ハマキガ科やキバガ科やヒロズコガ科など小型で原始的な蛾類の世界に踏み込んだ。そして、記録集積の重要性を知るようになった。虫屋の繋がりを持つようになったのも、記録報告を意識するようになったのも、この時からであった。
私が子供の時はネット等が一般的ではなく、近くに自然史博物館もなく、ほとんど独学で昆虫採集をしていた。近年はネットが発達し情報収集しやすい時代となり、学会や同好会の存在が身近になってきている。昆虫採集を趣味とする小学生や中学生や高校生が成果を発表する機会も増え、それらが重要な記録として残っている。会に入会することで、専門家やベテランの愛好家と話しができるので、是非ともネットワークを広げ身近な昆虫相の解明のために記録を蓄積していただきたいと思う。身近な昆虫がいつの間にかいなくなり絶滅危惧種になってしまうことがあるので、このような記録の蓄積は「今」しかできないものである。このような記録は地域の昆虫相解明に大きく貢献していくことであろう。

写真.さいたま市大宮区大門町のクスサン(2010年10月5日撮影)
Last update: 15 Dec, 2025