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蛾類学会コラム24 セスジスカシバ

工藤忠

スカシバは、フェロモンルアーで簡単に採れるという印象を抱いている人が多いと思う。でも実際は、ルアーで採れないスカシバが少なくない。

fig. 1

筆者がフェロモンルアーを初めて入手したのが12年前。さっそく真夏の八甲田山へルアーを持ち込むと、キタスカシバが次々に飛来した。キタスカシバは、姿かたちからサイズまでスズメバチに酷似した大型美麗種なので、最初の頃は狂喜した。でも何度チャレンジしても、集まるのはキタスカシバばかり。それ以外の種はなかなか集まら
ない。配偶時間帯と発生環境が特定できれば、ヒメアトスカシバやコスカシバのようにルアーで採れるスカシバは何種かある。しかしながら、ルアーを使っても採りにくい種は意外と多く、セスジスカシバもその1つである。
とはいえセスジスカシバの場合、♀はクマイチゴで産卵中のものが容易にみつかる入門的な存在である(fig. 1)。

ところが♂は、フェロモン成分に短時間で変化するものが絡むのか、ルアーを使っても全く飛来しない。触角の櫛毛が、日本産スカシバガ科の中で一番フサフサした魅力的な♂なのに(fig. 2,3)、頼りのルアーで採れない難物なのである。
新鮮なセスジスカシバの♂が欲しくて、産卵されたクマイチゴを持ち帰り、株ごと鉢植えにして観察した。高さ1m ほどの葉裏に産まれた卵は10 月初旬に孵化し、孵化幼虫は葉柄を経て茎へと移動。そこで茎との分岐部から穿孔すると思い込んでいたのだが、孵化幼虫は茎表面をしばらく歩行して根元へたどり着き、土との伱間から土中へと潜り込んだ。卵がついていた葉から根元までの距離約1メートルの移動時間は約70分。さすがに土中へ潜ってからの行動は観察できなかったが、しばらく様子を見ても再び地上に現れることはなく、穿孔は根側で行われるものと推定された。その後この株は、落葉して雪に埋もれ,翌春あたらしい茎が萌えて、晩夏には前年茎の根に近い部分から本種の成虫が羽化に至った。

fig. 4

羽化後にクマイチゴの株を割ってみると、 前年茎の下部だけでなく根まで含めた15㎝ほどの範囲が中空になっていて、その最も上側壁面の薄皮を突き破るようにして蛹が出ていた(fig. 4)。多くのスカシバに見られるような顕著な虫エイは認められなかったが、春から初夏までは前年茎と土の伱間から、よく目立つ淡褐色の木屑が大量に排出された。幼虫探索の際にはこの木屑が穿孔サインとして役立つが、蛹化期には木屑が黒っぽく変色して発見しにくくなった。

 

 

 

こうして鉢植え管理しただけで、新鮮なセスジスカシバの♂を入手することができた。同時に羽化した♀は当然ながら未交尾なので、金網の虫籠にいれてクマイチゴ群落に連れ出すことを思いついた。日没が近づくと、未交尾♀は尾端から誘引腺を伸ばし (fig. 5 )、しばらくすると虫籠には多数の♂が飛来(fig. 6 )。生のフェロモンの威力を思い知らされた。

fig. 2,3,4は筆者、写真fig. 1,5,6は工藤誠也撮影

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Last update: 22 Sep, 2019