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第50回みくに会報告

みくに会幹事 阪本優介・飯森政宏・野中俊文

今年で50回という節目を迎える日本蛾類学会が主催する採集例会、通称「みくに会」が初夏を感じさせる6月1~2日に長野県伊那市の仙流荘を会場に行われました。

我々幹事が到着した受付開始時間の2時間前には既に気の早い参加者が何名か到着しており、近隣に咲くウツギの花に舞うトラガやコトラガを採集していました。受付開始の15時には8割の方が訪れ、懐かしい仲間と久しぶりの再会に談笑していました。

今回は過去最多であった52名を大きく上回る69名の方に参加いただきました。参加者の年齢も最年長の83歳(山本光人さん)から最年少の10歳(大沢はるかさん)と幅広く、なかでも20代以下は16名と若手の参加が目立ちました。さらに女性は14名と過去に類を見ないほどの参加となり、女性にも蛾が受け入れられ始めているのを実感しました。全体の約4割が20代以下と女性というこれまでにない華やかさの中、第50回みくに会の幕が上がりました。

16時からはこれまでみくに会の幹事を長年やられてこられた山本光人さんによる、50回記念講演「みくに会を振り返る」が始まりました(fig. 1)。今は知る人の少ない黎明期からの貴重なお話に多くの参加者が耳を傾けました。中でもフユシャクの権威である中島秀雄さんを「中島君は今も変わりませんね」とか、岸田現会長を「このころは岸田君が今みたいに偉くなるとは思わなかった」などさらっと言われた時には、皆さんどっと沸いていました。さすがに50回のスタートを知る方の話には重みがあります。さらに講演に先立ち、同じく黎明期を知る佐藤力夫さんによって書かれた、みくに会の立ち上げの話や参加者のみくに会への思い出をつづった50周年記念誌が配られており、それらの内容にも触れながら記念講演は終了しました。

18時からは夕食を兼ねた宴会です。宴会に先立ち、乾杯の挨拶を第1回のみくに会から参加されている佐藤力夫さんから頂きました。「いつだったかのみくに会で、50回を目指して!と佐々木明夫さんが言われましたが、まさか今まで続いて、今日がその50回目とは、大変感慨深い。次は100回に向けて皆さんよろしくお願いします。乾杯!」と、50回に相応しい挨拶を頂戴し、酒宴が始まりました。そこかしこでいろいろな情報交換や親睦がされる中、山本さんより、往年のみくに会を思わせる採集開始の合図「ヨーイ・ドン!」が発声されました。

近年のみくに会は、天候が思わしくなく採集にはあまり向いてない日が多かったのですが、今年は月齢も天候も申し分なく、宿の周りには工夫を凝らした7つの屋台が張られました。初参加の皆さんを含め、明け方まで皆さんこぞって幕の見回り、採集をしていました(fig. 2)。近年は撮影をされる方も多く、カメラ片手に幕を回る方も見られました。ライトトラップが初めての参加者もおり、実際に見るライトトラップに集まる各種のガとその周りでの談笑をたいへん楽しんでいました。採集がひと段落すると大広間で行われている宴会でさらに親睦を深め、みくに会の夜は更けて行きました。屋台のライトは朝までついていましたが、宴会は2時過ぎには終わったようです。

翌朝7時半の食事には、皆さん眠い目をこすりながら食堂に集まってきました。今年は起きられなくて食事ができなかった幹事はいなかったようです(数名寝ていた方がいたようですが・・)。食事後のミーティングでは、珍品賞として、センモンヤガを採集された方に「むし社」さんから提供頂いた「世界のクワガタムシ大図鑑」、「日本産カミキリムシ大図鑑(Ⅰ)」が贈られました、また「六本脚」さんから提供頂いた、虫屋的にも学術的にも興味深い書籍等を岸田会長とのジャンケンを勝ち抜いた方々に贈られました。

各自朝の支度を済ませ、9時半には恒例の記念撮影が行われました。第50回ということで宿の正面に総勢69人がおそろいの50周年記念Tシャツを着て集合し、山本さん、佐藤さんをはじめとする大先輩方を前列に据え撮影が行われました(fig. 3、fig 4)。

通常であれば、写真撮影で解散ですが、今年はさらに幼虫観察会と展翅教室という二つのイベントを企画しました。以下にそれぞれの実施概要を記します。

幼虫観察会は、みくに会の黎明期、幼虫戦争時代の代表格中島秀雄さんを迎えて、昨年に引き続き第2回目の開催です。参加者は講師の中島さんを筆頭に、10歳の少女から2mを超える大男まで、総勢19名と前回の4倍の人数で行われました。山本さんは「初期のみくに会みたいだなぁ・・」と目を細くして感慨深そうに話されていました。宿の周りに良い観察地がなかったため、急遽前日に中島さんが探し回った観察会に適した場所を舞台に幼虫教室は始まりました。中島さんに加え、昨年出版された「小学館の図鑑NEO イモムシとケムシ DVDつき: チョウ・ガの幼虫図鑑」の著者、横田光邦さんと山本光人さんも加わり、たいへん豪華な教室となりました。チャバネフユエダシャクの幼虫やオカモトトゲエダシャクの幼虫など、中島さんが下見しただけあってたくさんの幼虫が見られました(fig. 5、fig. 6)。

もう一つのイベント、展翅教室は、きれいな展翅で定評のある朝長政昭さんを講師にお願いしました。参加料3,000円でしたが、参加者には全員に基本セットとして、展翅板・昆虫針・展翅テープ・止め針・ピンセット、さらには朝長さんお手製の柄付き針に、軟化済みのエゾヨツメが準備されました。最初に朝長さんが一通りの流れを説明し、それを踏まえて参加者が実際に展翅をしました。やはり実際にやってみると思うようにいかないようで、はじめは四苦八苦していた参加者ですが、数をこなすにつれて上手になり、ついには昨晩自分で採集した蛾を持ち出して展翅板いっぱいになるまで展翅し、たいへん満足していました。展翅は人によってやり方が少しずつ異なるため、スタッフとして参加した幹事も大変勉強になりました。学会としては初の試みであったのですが、学術的にも非常に有意義なイベントとなりました(fig. 7、fig. 8)。

これら2つのイベントも13時までには終了し、皆さんたくさんの思い出とともに帰宅しました。

来年は第51回みくに会になります。これからも皆様に蛾の美しさやすばらしさを伝えつつ、蛾類愛好家の親睦に寄与し、そして何よりも明るく楽しい蛾類学会の採集例会「みくに会」の歴史を紡いでいきたいと思います。

皆様引き続きのご協力とご参加をお願いいたします。

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Last update: 16 Jun, 2019