TITLE

蛾類学会コラム20 カトカラ年間全種制覇の旅

平坪和規

正直、「これはいける」と思った。日本産カトカラ全31種を1年で採集するという、一見無謀とも思えるチャレンジ。2018年9月1日、30種目のムラサキシタバを手にした時、まだ達成したわけでもないのに舞い上がってしまった。

そもそも、カトカラを1年間で制覇するという試みは、キララキシタバとアマミキシタバが加わる以前の29種だった頃に「裏ヘテロ会」というサロンの先輩方がすでに何度か達成されている。これは大変偉大な記録である。だが31種となった現在、1年で全種を手にされた記録は見いだせなかった。カトカラは昔から好きな種群であったし、私のような端くれでも何か話題提供できるとすれば、これ以上のものはないと思った。挑戦の始まりである。

しかし、いつでも採集に行けるわけではないし、過去に採ったことのないものが8種もいたので不安要素は大きかった。幸い、カトカラは人気のグループだけあって採集記録に関する文献は多い。あとはとにかく現地に行く「行動力」だけだ。まずはトップバッターのアサマから、フシキ、ウスイロ、コガタ・・・と発生順に落とし、三重でヤクシマヒメを得たあたりから計画も軌道に乗ってきた。7月に入ると様々な種が出てきて各地を奔走することになるが、詳細な情報が無い中で北海道に遠征し、キララを得られたことは幸運だったし、以前何回か通っても採れなかったカバフを採集した時は感動した。8月になってからは本州中部山地を巡って採り残しとヨシノまでを落として27種。エゾベニ、ケンモンは確実を期すため個体数の多い北海道に再度渡るなど燃費が悪い部分もあったが、なんとか17回の採集で30種(Fig. 1)まで得ることができたのである。

そして、残るはアマミキシタバである。化性も食樹も分かっていない謎多き種ではあるが、記録を見る限り周年採集されているようだ。これなら季節は関係ないから、最後の〆にしても良いだろう、奄美大島に行きさえすれば採れるだろう、そう思っていた。これが間違いだった。まったく採れない。もはやレンタカー会社や宿の方と親しくなるほど通っているのにもかかわらず、縁がないのである。結局、2018年内に採ることは叶わず、年間全種制覇の夢は露と消えてしまった。

全種を1年で得ることに必要性などないのかもしれない。だが31という適度な種数がコレクション性をくすぐるし、ローカルな種はいてもド珍品がいないというのも達成を現実味があるものにしている。そして何しろカトカラは美麗種揃いだ。道のりは決して平坦ではないが、新年号の初年である今年、新たなカトカラライフの幕開けとして再度挑戦してみるのもいいのかもしれない。

カテゴリーの一覧へ戻る

Last update: 21 Apr, 2019