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蛾類学会コラム19 驚愕のミノムシ採集法

新津 修平

ミノムシと言えば、秋風が冷たくなる晩秋の頃、庭木や街路樹の枝にぶら下がっている姿を思い浮かべる人は少なくないと思う。言うまでもなくミノムシは、ミノガの幼虫である。ミノムシは、木や草の生葉を食するということはよく知られている。ところが、公園や街路樹を見回しても、「そう簡単にはミノムシは見つからない!」と思われた方も多いのではないだろうか。実のところ、ミノムシの多くは、生葉より地衣、蘚類、土壌中の昆虫の死骸等を食している小さな種が大半を占めている。ここでは筆者が偶然に目にした状況から見出した、「驚愕のミノムシ採集法」を紹介したい。

Fig.1 ミノムシの多い道路脇のガードレール(山梨県・笹子峠近く)

東京農大から東京都立大(現・首都大学東京)の大学院に進学した私は、所属する研究室の新歓採集会で山梨県の山麓へ向かった。2003年の5月頃のことである。当時の私は、ミノガ科のオオミノガ、ドクガ科のアカモンドクガとシャクガ科のフチグロトゲエダシャクだけを研究対象としていた。目的地に到着後、ラボメンバーがそれぞれ自分の専門とする対象の昆虫を探し始める一方、この時の私は、現場到着後、特に目指す特定の昆虫もなく暇を持て余していた。暇つぶしにクルマを寄せていたガードレールを見ると、一匹の正体不明の小さなミノムシを見つけた。ウエストポーチからサンプル瓶とピンセットを出し、さらに周囲を散策すると、ガードレールのポールや壁面に数メートル間隔で数匹の蓑が固着していた。しかも1種だけではない。その日は2時間弱の散策で殻ミノを含めると100個体近くの蓑を採集した。研究室に持ち帰り、その日の内に仕分けをし、観察・飼育をしてみた。今思うとこの山梨県での採集が、後にミノガ研究のきっかけとなるミノムシとの出会いだった。

 

Fig.2 ガードレールに付いているミノムシ(京都府・貴船神社近く)

何故ミノムシがこれ程多くガードレール近辺に固着しているのか。それは、餌を食べなくなった老熟幼虫が、餌場の地表面から離れて蛹化場所を探す際にガードレールのポールを登って来てその壁面にたどり着いて蓑を固着し、そこで蛹になるためである。採集のタイミングが合えば、採った蓑のうちの大半から、ミノムシの成虫であるミノガが羽化する。ミノガの成虫は、他の蛾類のように夜間採集の際に、ライトトラップでの効率よい採集が困難で、これまで幼虫の飼育以外では成虫を手に入れるのは簡単ではなかった。ガードレール採集法は、ミノムシの蛹化時期に合わせて採集調査をすれば、これまで採集が困難だった老熟蓑や蛹化蓑を容易に採集できる最適な採集法と言える。日本産ミノガ科は、未記載種を含めて約40種ほど知られているが、およそ半数の20種近くが、ガードレール採集法で採集することができる。
さらに、究極のガードレール採集テクニックは、目的の採集地の下見である。Google マップの検索地図を航空写真モードに切り替えて、さらに3Dモードで画像を見ることで、道路脇のガードレールミノムシ採集の立派な下見になる。これをやっておくと時間を節約でき、限られた日程の採集調査を有効に実施できる。

 

Fig.3 ガードレールの上を歩くハルノチビミノガ老熟幼虫(山梨県北杜市・3月下旬頃)

一部の研究者を除くと、生葉を食べるオオミノガやチャミノガより小さなミノムシの採集を積極的に行っている人は決して多くないのが現状である。このコラムをご覧になった皆さんにも、ガードレール採集を通じて、驚くべきミノガの新発見ができるかもしれません。

 

 

 

 

 

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Last update: 17 Mar, 2019