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蛾類学会コラム15 ラオスで蛾と暮らす11月編

小林真大

11月に入るとラオスの非常に短い秋を感じられるヤママユ達が現れる(Fig. 1)。 私が定点の拠点とするプークンは標高1500m程に位置し(Fig. 2)、11月に入ると非常に寒い日もあり強風が1週間続き、蛾がほとんど飛来しないこともある。そんな時は僕も布団にくるまって越冬している。

ラオスは日本人にとって南国で熱帯というイメージがあるかもしれない。しかし、場所によっては気温が0度近くにもなり雪が降る場所もある。

11月の寒い日が続く中でもしっかりActias maenas(Fig. 3)は生きている。 雨季にも見られるがここ3年間見ていると乾季の個体数の方が明らかに多い。 峠では深夜3時半になるとすごい勢いで飛来する。時計を見ずに夢中に採集している日はもうこんな時間かと気づかされることが多い。蛾屋の場合、時計などは必要ない。ナイターをしていればだいたい時間がわかってしまう。 Criculaが沢山飛来し始めたらニワトリも鳴き始めそろそろ夜が明ける。シメのヤママユでもある。 11月でも気温も高く霧が出るような日には、壁が埋まる程の蛾が飛来する。もちろん、部屋の中もたくさんの蛾が紛れ込んでくる(Fig. 4)。

 

この時期に目立つシャチホコ、Harpyia longipennis(Fig. 5の上2つ)、Acmeshachia gigantea(Fig. 5 左下)、両者共にシャチホコの中では割と早い時間帯から飛来する。 ウスマダラカレハ(Fig. 5 右下)も日没直後にまとまって飛来しライトの周りを暴れ回る。 霧の日にEudocimaIschyjaをはじめ日本の八重山から広く東南アジアに分布する飛翔能力の高い広域分布のヤガが多数飛来する。これらは1000m以上の高標高地では霧がでないとまず大量に飛来することはない。隣の山まで雲が繋がっている状況では光の拡散はすごく、かなり広範囲から蛾が飛来する。

 

そんな中にEudocima hypermnestra (Fig. 7 上)やベニモンコノハ(Fig. 7 下)が飛来してくれると盛り上がる。 ベニモンコノハはライトに一度やってきても、すぐにどこかに消えてしまう。ライトから離れた暗闇と光の境を低空飛行していることが多い。ハグルマヨトウ(Fig. 8 左)やシンジュキノカワガ(Fig. 8 右)もこの時期に一番飛来数が多い。これだけ飛来しないとハグルマヨトウを手で触って遊ぼうとはしない。刺激すると鳴き、良い匂いなのには東南アジアに出るまで気づかなかった。 中学生の頃、西表島で幕に飛来したハグルマヨトウを見つけた際は慌てて瞬時に毒瓶に入れた記憶がある。Baorisa hieroglyphica (Fig. 9)は、ものすごい数の蛾が幕に静止していても(Fig. 10)真っ先に目がいってしまう程の模様だ。とにかく言葉にしようのない蛾である。

このような蛾がまだまだラオスには沢山いる。一生かかっても見きれないのは十分承知でいるが、今後も一生終わらない蛾の世界は続く。

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Last update: 19 Nov, 2018