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蛾類学会コラム2 八甲田のウスタビガ

工藤 忠

Fig. 1 工藤 忠氏。

2014年10月2日、採卵用のクロウスタビ♀が採りたくて八甲田山へ向かった。ところが、目的だったクロウスタビは気配なし。22時までの成果は、著しく汚損したオオシロシタバとゴマシオキシタバだった。今夜のナイターは失敗だなぁと思いながら、下山途中の灯火に立ち寄ると、なにやら大きめの蛾が乱舞している。どうせヒメヤママユだろうと思ったが、驚いたことに全部がウスタビ♂だった。あまりの光景に唖然としているさなか、胸ポケットの携帯電話がブルブル震動した。「岸田です。ミチノクスカシバの記載文が発表されたので、地元の新聞社へ取材依頼するように・・・・・・」この時のやり取りは、月刊むし528号の「ミチノクスカシバ発見記」を御一読いただきたい。とはいえ、この時の私は、目の前を乱舞するウスタビ♂に夢中で、ミチノクスカシバどころではなくなっていた。

八甲田でウスタビガの♂を採ったのは、恥ずかしながらこの時が初めてだった。なのにこの日は、アッという間に24♂を確保。どの個体もきわめて新鮮で、大半は茶褐色ながら、それなりに黒味のある個体が混じっていた。状態の良い個体だけを三角缶に収容し、残りはリリース。ウスタビ♂の採集は簡単だと勘違いしてのリリースだった。

翌10月3日、22時過ぎに行けばウスタビ♂は乱舞していると勘違いしたまま再び八甲田入りしたものの、茶褐色1♂が飛来しただけ。聞くところによると、ウスタビ♂は夜より日中に飛ぶという。前夜の乱舞が不可解だが、似たような経験をもつ蛾屋さんは少なくないようだ。

10月4日は休日だったので、朝から八甲田。積雪日本一で有名になった「酸ヶ湯」より100~200m標高を下げた峡谷を、真っ黒な蛾がかなりな速さで飛んでいた。黒過ぎて別の蛾かもしれないと思いつつ一応ネットイン。予想をはるかに凌ぐ黒さのウスタビ♂だった。この個体はミチノクスカシバでお世話になった岸田会長に献上。左後翅の前縁が奇形なことが残念だったが、鮮度と黒さは4年目の今日振り返ってもトップクラスである。

Fig. 2 1~4が八甲田700m地点、6の赤黒い♂は八甲田山麓200m地点、5は長野県産の黄色い♂。

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Last update: 21 Nov, 2017